マインドフル・ビジネスについての考察(前半)
「マインドフルネス」とは何か?
マインドフルネスとは、その言葉のごとく「マインド(心の注意)」が「フル(満たされている)状態」、つまりは心がどこかに拡散していなく、自分のまわりで起きている事象に、すべての事柄に100パーセント集中している状態です。
禅の言葉では「三昧」(さんまい)とも言い換えることができると思います。
禅の言葉では「三昧」(さんまい)とも言い換えることができると思います。
これまでの伝統的な仏教などの宗教の中で使われてきた「瞑想」をツールとして切り出し、宗教性を排除したうえで、瞑想を活用することで、今ここに集中し集中力やEQ,対ストレス性などの向上を目指す活動です。現在では、代替医療の現場や教育や経営で使われてきているものです。
マインドフルネスの起源は、禅だとも、原始仏教だとも諸説ありますが、そのオリジンはテーラワーダ仏教におけるサティ(気づき)がベースになっていると説もあります。しかし、正確なところは正直わたしはわかりません。
わかっていることは、1960年代に、米国カルファルニアで幾つかの禅道場ができたことをきっかけに、その後多くのアメリカ人が参禅をおこないました。影響を受けたアメリカ人とカウンターカルチャーなどが結びついた一部の神秘主義のブームが起きました。参禅したアメリカ人の中にはスティーブ・ジョブズ氏も含まれていたということです。
このムーブメントの後、70年〜80年代にかけて次第にカルフォルニアから発信して米国の中に、禅が溶け込んでいきました。その後2000年代に入るとシリコンバレーのITベンチャーの経営者、従業員などが瞑想を行い、ストレスの低減、集中力向上、組織内での人間関係の円滑化などに効果があるということが経験的にわかってきたのです。
最近では、脳波を測定することで、瞑想の集中力強化・ストレスの低減などの効果が科学的に証明されつつあり、米国のマサチューセッツ大学医学部では瞑想の医学的なアプローチからの研究論文が多数出版されていたり、スタンフォード大学ではマインドフルネスの正式な授業があるほどです。
マインドフルネスは当初、GoogleやFacebookまたLinkedinなどのベンチャーでの導入が多かったようですが、現在では、IT業界では老舗のインテル社なども全世界の10万人の社員に対して社員教育の中で瞑想をワークショップの中にとりいれた研修プログラムを導入しています。
マインドフル・ビジネス
欧米では5年ほど前から、このマインドフルネスな状態を一般人や企業に提供することをビジネスにする「マインドフル・ビジネス」といいうものが立ち上がってきています。日本でも今年から来年にかけて、このマインドフルな状態を提供するビジネスがたちあがって行くであろうとおもわれます。
マインドフル・ビジネスの定義を試みる
これまでは、マインドフル・ビジネスとは、一般人や企業向けの研修などいわいる「教育」のカテゴリーのみと考えられてきましたが、あえて新たな切り口でマインドフル・ビジネスの定義をしなおしてみようと思います。
あくまでも個人の定義ですが、「マインドフル・ビジネスの定義」を「人の心の能力向上を目的としたビジネス」と定義してみたいと思います。
これまでは、マインドフル・ビジネスとは企業向け研修や、個人向けのカウンセリング、または代替医療などの一部の領域に限定されていました。しかしながら、各業界のなかにこの数年で「マインドフル」の萌芽が芽生えてきており一般にマインドフルビジネスとは関係がないと思われている領域でも、実は「マインドフル」になりつつあります。
そこで、現在のあらゆる産業の中にすでに「マインドフル」な状態を作り出すという目的のビジネスがすでに含まれていると考えてみました。
例えば、今流行の「IoT」産業の中にも、MUSEのように人間の体のバイタル情報をセンサーでキャッチし、それを自らにバイオフィードバックをかけ、自分自身の状態をモニタリングすることで、「マインドフルな状態」を自分で作り出すガジェットなどが登場しつつあるからです。
またAI(人工知能)の業界においても、仮の話ではありまするが、悩みを抱えている人の話をひたすら傾聴することで、人の心を慰める作用をもたらしたり、また禅問答のような対話をすることで、人に気づきを与え、人の心の成長をたすけるようなAIが登場すれば、それは十分にマインドフルビジネスのカテゴリーに入ると思われます。
つまり、それぞれの産業の中に「マインドフルな状態を目指す」製品やサービスなどが、すでにもう含まれており、それを切り出して合算すれば、大体の「マインドフル・ビジネス」世界市場規模になるのでは?と、ざっくりっと考えたわけです。
マインドフルネス・カンファレンス”Wisdom2.0”に見る、米国マインドフルネスの盛り上がり
参加する人々のカテゴリーは、僧侶、心理学者、ビジネス・コーチ、コンサルタント、経営学者、人工知能研究者、ITエンジニア、企業家、社会企業家、アーティストなど実に様々な人々がアメリカだけではなく、ヨーロッパ、アジア、中東、アフリカから集まります。
そのカンファレンスの盛り上がりを体感しようと、今年(2016年)の2月にサンフランシスコで開催されたカンファレンスに参加させていただきました。その会場の規模は、1室で2,000程度の人数を収容するくらいの部屋が数室あり。3日間で数10セッションが行われる大規模なものでありました。
また会場では、マインドフルネスに関連したIoT関連機器、マインドフルネス授業として提供している大学、コンサルティング、マインドフルネス関連ビジネスに投資をしているVCなどのブースが設置され、カンファレンスというよりも、マインドフルビジネスのMTGポイントのような様相を呈していました。
この会議の存在は、マインドフルネスに詳しい方に教えていただいたのですが、正直、昨年末までは全く知らない存在でした。しかし実際に参加してみると、その規模の大きさ、集まってきている参加者の多様性や、そのエネルギーに、ただただ驚くだけであったのです。
カンファレンスルーム(開始するとこの規模の会場が一杯になりました)
パネルディスカッションの模様
瞑想サポートIoTデバイス ”MUSE” の体験&販売ブース
マインドフルネス専門雑誌 ”mindful”
熱気はドットコムバブル以前のインターネットカンファレンスと同じ
このカンファレンスに参加して、感じたことは「マインドフル・ビジネス」の立ち上がりの可能性です。実際にこの会場に足を運び、そこで感じた熱気は、わたしが大学院生であった2000年以前のInterlopなどのインターネット関連のカンファレンスと同じでした。
当時はまだインターネット・エンジニアが少なく、わたしが所属していたSFCでもインターネットを研究している研究室の学生の多くがカンファレンスのエンジニアとして駆りだされていたのを覚えています。
そのように、当時インターネットは非常に限られた人間のみが、知識を専有している極めて専門的な分野であり、そのテクノロジーの可能性を理解できる人間も極めてわずかでした。
当時、インターネットテクノロジーを用いてビジネスを創るにあたり、言われていたことは「基本的には無料で使えるインターネットを使って、どうやって利益を生み出すビジネスにするのか?」という矛盾をどう超えていくのかということでした。
特に、現地・現物・現場を持つ製造業などから見れば、目に見えないインターネットなるものは、「まずはそんなものはビジネスにならない」という意見が多かったように思い出されます。
2000年以前のインターネット業界とほぼ同じことがマインドフルネスの分野でも起こっている気がします。それは、瞑想や坐禅のような、言わばフリー(無料)で実践できるもので、どうやって収益が出るビジネスになるのかということです。まずは、ほとんどの実業者にとって「そんなものは、ビジネスにならない」ということなのだと思います。
おそらくは、この業界にもバブル的なものはやってくるであろうということです、そしてそれが一段落した後、本物の価値を提供する企業が生き残り、この市場を拡大させていくのであろうということです。
マインドフル・ビジネスの市場の広がりと規模に関しては、また次回のブログでお伝えしたいと思います。
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