スキップしてメイン コンテンツに移動

「中小製造業」×「大学」×「BOP」

先日、東京大学の博士課程の学生が中心で企画をしたBOPシンポジウムに参加した。

ある学生が、我々enmono社の活動をTwitter経由で発見し、直接DMで招待をいただいたのが、きっかけだった。

シンポジウムの内容は「BOP」: Base Of the Pyramid=世界経済の外にいる貧困層40億人を、日本の技術、大学の叡智を用いてより豊かな生活をできるようにするべきだということが趣旨であった。

シンポジウムにはMITのD-labという、ハイテク&ローテクを使って、途上国の生活を改善させるプロジェクトからの参加もあり、世界のもっとも先駆的な事例を、英語プレゼンテーションでに聞く機会に恵まれた。

恥ずかしながら、このシンポジウムに参加するまでに、BOPという言葉さえ知らなかった。

そもそも、「技術」とは人間の生活をより豊かにするために存在するものであるのであるが、現在ではそれが経済的な価値として金銭的に儲かる、儲からないで判断され、儲かる技術は世界中に広まり、また、儲からない技術は企業や大学のなかに打ち捨てられている。

しかし、「技術」の本来の持つ意味からすれば、それがより良いものであれば、世界中に広めるべきであり、それにより人々の生活を豊かにするべきものである。

「技術というものを、どうしたら現在の経済システムの外にいる40億人に対して広く普及させ、人々の生活をどうやったら豊かに出来るのか?」というのが、わたしなりに理解した「BOP」の活動であった。

現在、BOPに対して様々な活動を行っているNPOやNGOまたは個人の殆どは、その活動の原資を企業からの寄付によっている。

しかしながら、BOPへの普及がビジネス的にきちんと回りさえすれば、世界経済のパイは40億人分だけ膨れ上り、貧困層の人々の生活は、これまでより、より安全に、健康に、そして豊かになるわけである。

仮に、BOPの人々にとって絶対必要不可欠な製品を開発し、一人から1円と同じ程度の売上を上げることができれば、40億円の売上につながる。

本シンポジウムで事例として上げられていたのは、人間には生きていく上で必要不可欠な「水」の清浄化に着目した、大阪の中小製造業の「日本ポリグル株式会社」である。同社、では、納豆に含まれているネバネバ成分に着目し、その成分を粉末化して水中の汚れを吸着化させる技術を開発した。

同社の小田会長は自らバングラデッシュに足を運び、現地の人の目の前で水を清浄化するデモンストレーションを行い、製品のPRをしてきた。

すばらしいのは同社はバングラディシュの女性の方々を組織し、「ポリグルレディ」として現地で販売する組織をつくりあげつつあることである。

本活動により、これまで現金収入のなかったバングラデッシュの地元の女性の雇用を作り出し、経済的な自立を促し、さらに、本製品を販売し、飲み水を濾過してもらうことで地元の方々が衛生的で、健康な生活できるようになるということである。

日本の水道水はどこでもそのまま飲めるレベルまで清浄であるので、本製品の拡販は難しいが、深刻な水の汚染が問題となっている貧困国でのニーズは非常に高い。

同社の事例は一例に過ぎない、その他多くの日本の技術が貧困国から貧困と劣悪な生活環境を取り除くことに貢献できると考えられる。固定費が少ない中小企業であるからこそ、最初からそれほど大きくないマーケットに対しても斬り込んでいくことができる。これこそ、日本の中小製造業の次に開拓すべきマーケットの一つであると考える。

シンポジュウムのあとで参加者の方々との交流会があり、その場で何人かの研究者と参加者に対していかのような意見を申し上げた。

『日本の中小製造業は、内部に様々な技術シードを持っているにもかかわらず、国内大手メーカーからの発注がほそり、多量の生産設備と人員があまっています。日本の中小製造業が持つ高い技術を、BOPの方々向けに活用することができれば、経済的にも大きな果実を得ることができる上に、世のため人の為に働くという製造業の方々の意識の向上も期待できます。また、モノづくりを通じて、世界のBOPのために貢献できる製造業に、今の若者の意識を向けることができるたので、跡継ぎがいない中小製造業の後継者問題も解決できると考えています。』と。

多くの研究者の反応は、非常に好意的であった。そして、様々なディスカッションをさせていただくことができた。

そのディスカッションの中で、研究者の方は、現在の日本の製造業および中小製造業がおかれた立場を、ほとんどご存知なかったということににショックを覚えた。

そこで、学術の世界のなかのBOPと、実際のモノをつくる世界の方々の意識をつなげる必要を強く感じた。

双方の世界のブリッジになり、BOPのために日本の中小製造業の力を活かしていただくために経営者を説得することは相当にハードルが高い。

しかし、我々はこれまでのような大企業からの注文をこなしてゆくモノづくりから、中小製造業自らが最終製品をつくり、BOP市場に使ってもらうことで利益を得られるようなエコノミクスを設計していかなければ、日本の中小製造業は滅んでしまうのではという非常な危機意識を持っている。

日本に残された時間は少ない、そのなかで、どこまでブリッジになることが出来るのか、とにかく、心の声にしたがって動くしかない。アクションを起こすと気が来たと感じた。

その後、研究者の方から直接メールをいただき、日本の中小製造業の技術を活用してBOPのために貢献するプロジェクトを起こせないかとご相談をいただいた。

即座に「YES」メールを返信した。

なにか分からないが、大きなうねりが起きていることを感じる、まさに日本の開国時に起きたウネリのようなものが。日本を想う心、世界を想う心、それがエコノミクスとして回り始めたとき、次世代の日本、「ニッポンVer. 3.0」が始動すると感じる。

コメント

このブログの人気の投稿

マインドフル・ビジネスについての考察(後半)その市場規模はどれくらいあるのか?

マインドフル・ビジネスについての考察(後半) その 市場規模はどれくらいあるのか?    前回のブログ「 マインドフル・ビジネスについての考察(前半) 」 の宿題で、マインドフルネスの市場規模がどの程度あるのかということを探るべく、いろいろ調査して探ってみました。  はたして、マインドフルネス市場の大きさはどの程度なのだろうか?という疑問から、海外の調査レポート など散々に検索しても、それらしき数字は出てきませんでした。  海外のWEBを探ると 、 雑誌フォーチュンのこの このような記事 や 、 NYCの関係者がまとめた MBSR ( Mindfulness-Based Stress Reduction Program ) の市場規模 などを見つけることができました 。  そもそも、未だマインドフルネス市場は立ち上がっていないのかもしれませんし、立ち上がっていない市場を予想するのは非常に難しいのだと思われます。  結果としてマインドフルネスの市場規模と明確なデータを見つけつることが出来なかったので、完全なる私的な推測で市場規模の予測をしてみようとおもいます。  まずは、マインドフルネス・ビジネスとしてどのような市場カテゴリーがあるのかということを以下にまとめてみました。 1. IoT&ものづくり  IoTとモノづくりの市場におけるマインドフルネス市場の予想を考えてみましょう。マインドフルネスのブームとともに、自宅でも坐禅や瞑想を行う方が増えてきています。  自宅の近くに禅寺があるような恵まれた方は、定期的にお寺に通い指導をしていただけば良いのだとおもいますが、そうではないメディテーターのために、IoTを用いて瞑想をアシストするような必要性が出てくるのだとおもいます。  そこで、IoT市場でも、先の取り上げた MUSE のようなマインドフルネス瞑想をアシストするような製品が登場すると思われます。マインドフルに特化したセンサーのようなバイタルセンサーなども含まれると考えれられる。この数字はあくまでも既存の市場データを参考にして、非常にざっくり算出してみました。 マインドフルデバイス MUSE 参照URL: http://www.choosemuse.com/ 自動...

「マイクロモノづくり」とガンディーの「チャルカ」思想

「マイクロモノづくり」とガンディーの「チャルカ」思想  インド建国の父であるマハトマ・ガンディー(「マハトマ」とは偉大なる魂の意味で愛称)と一緒に写っている糸車のことを「チャルカ」と言います。このチャルカは建国当時、インド国旗の中心のマークとなりました。現在のインド国旗でもその面影が見られます。 チャルカとガンディー( Wikipedia より) 建国当初のインド国旗( Wikipedia より) チャルカが国旗の中心にある。 現在のインド国旗( Wikipedia より)  当時イギリスの植民地にされていたインドは、原料の綿花を耕作し、それを輸出してイギリスから得たお金を、自分たちの輸出した綿花でつくられた布地を再びイギリスから買うことで吐き出すという状況でした。  インド人が自分たちが栽培した綿花なのに、なぜわざわざイギリスから布地を買わなければならないのか・・  ガンディーは国民がイギリスに依存する姿勢を改めるため、イギリスから布地を買うことを止め、自分たちで身につけるものは、すでに納屋にしまって数十年も経た「チャルカ」を納屋から出してきて、昔のように使い自分たちで生産した綿花を、自分たちで紡いで糸にし、それを自分たちの手でカディーという布地にして自ら身につける運動を展開することで、チャルカを独立運動のシンボルにしました。  「マイクロモノづくり」の思想も、中小企業・メイカーズが大企業の下請けとなり、そこに依存する生き方を選択するのではなく、自分がいちばんのユーザーになり、自分が欲しいものを企画・開発・生産をして、自らが販売を行うという、「独立自尊」の精神を持って事業を展開して行くという意味で、全く同じ考え方を持った運動です。  18−19世紀にイギリスから発祥した産業革命により、人々は安価に大量の製品を手に入れることができ、生活の「質」という意味では著しく向上しました。  産業革命により、大規模な生産設備に多数の労働力を集め、生産を行うために、事業家に資本を貸し付け、「利子」という新たな冨を生み出す金融ビジネスも大きく成長しました。産業の発展と、金融ビジネスの発展は車の両輪のように互いに支え合いながら成長していったのです。  正確な需要がつかめないものを、安価に販売するには、大量の材料を一度に...

禅に学ぶイノベーションのあり方 「脚下照顧」(きゃっかしょうこ)  〜イノベーションは外部ではなく、自分の足元にあり!〜

禅に学ぶイノベーションのあり方 「脚下照顧」(きゃっかしょうこ)  〜イノベーションは外部ではなく、自分の足元にあり!〜   日本のように成熟した市場で既存のビジネスに限界を感じている大企業は、「イノベーション」というキーワードのもと、新たな価値をうみ出そうとしています。  様々な、「イノベーションの起こし方」なるツールが開発され 公開されているように感じされますが、そのツールを使うだけで本当にイノベーションが起こせるのでしょうか?   私は、ツールではなく、イノベーション担当者の心のあり方に関して、我々がzenschoolという中小企業向けイノベーション講座を続ける中で得られた考えを示したいと思います。 「 Mee - too」イノベーション ( 手がかり情報を外部に求める )  イノベーション担当になった製品開発担当は、製品の企画を求めて、世の中の情報を探ります。インターネットを通じて、たくさんのWEBの記事を参考に情報を集めます、またSNSなども活用しつつ、現在どのような製品が市場で流行りつつあるのかということも調査します。  そこで担当者は参考になりそうな関連書籍をたくさん取り寄せ、読んでみたり、その業界の展示会に足しげく通い、情報を集めたりします。  仮にこのようなイノベーションのスタイルを「Me-too」(ミー・トゥー:僕も!)イノベーションと名付けるとしましょう。Me-too(僕も)なので、その言葉のごとく、 外部にある情報を元にして同じようなデザイン・同じような機能・同じような価格・同じようなビジネスモデルを参考にして、それらを複合的に組み合わせてビジネスイノベションを行うモデルです。  世の中で手に入りそうな情報をひたすら集め、それを参考にビジネスを企画し、市場を予測していきます。 イノベーションにおけるロジカルシンキングの罠 でも申し上げましたように、外から得られた情報を元に、製品開発を行うと、非常に似通った製品が市場に氾濫するという事態が発生しやすくなるのです。  インターネット時代の現在では、結果として世の中でえられる情報はほとんど同じな上、一定規模以上の企業がビジネスとして収益をえられる製品やサービスは必然的に似てしまうという結果となります。    ...